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第25部「生きろ」

25部 生きろ





本部前  鈴本・成琴   09時28分
2人がいた
2人は繋がっていた
2人は一番最初に一緒にいた
人を殺した
2人でたくさん殺した
言い出したのは・・・鈴本の方だった
しかし、鈴本の心が少し揺らぎはじめていた・・・

「・・・・由美?」
「ん、なに?」
「・・・・」
「・・・ど、どうしたの?」
黙る鈴本に成琴が焦る
「・・・・もう、止めにしない?」
「・・・・どういうこと?」
「もう・・・人殺すの止めようよ・・・?」
「・・・・」
「・・・・」
鈴本にはその沈黙が長く、恐ろしかった
「・・・・なんで?」
「え?」
成琴の返事に重なるように言った
「なんで止めるの?せっかくここまで来たのに」
「・・・だってさ、なんで私達人殺してるの?」
成琴は一度ため息を吐いて
「生き残るた」
「2人で生き残ったってしょうがなくない?」
鈴本が成琴の言葉を遮断して言う
「・・・・初めに殺そうって言ったのは美雪じゃん」
「・・・ま、まだ遅くない!今生きてる人だけでも集めて脱出しよう!?」
「・・・・美雪が良いなら私も別に・・・良いよ、殺さないんだったらそっちの方が良いし」

鈴本に笑顔が戻った
今度は殺戮の笑顔じゃなく、喜びの笑顔が
「よ・・・や・・やったぁ!良かった・・・じゃあ行こう!まだ生きてる女子を探そう!」
鈴本が後方に走り出そうとした

「・・・・・でも」
成琴が鈴本に聞こえない程の小声で言う
「・・・・その作戦はアウト」
鈴本には聞こえなかった

【バンッ】

本部の中にも聞こえる程の音だった
その音は簡潔で、乾いた空気にやけに響き渡る音だった
「・・・・」
鈴本は険しい顔で成琴を見るが、言葉は出なかった
声が出ない口が、パクパクと動いたのが分かった
・・・何と言ったのかは分からない、分かる術がない
鈴本は膝をつく

穴の開いた肺に、外の空気が入り込みゴポッという音と共に血液が口へと逆流する
ダラダラと血液が口から流れる
ーーー心は落ち着いてるのに、気持ちが落ち着かなかった。
抑えきれなかった
『・・・・息がちゃんと出来ない』
「ぁ・・・あぐ・・・・・ぐぐっ・・・ぁぐ・・・」
それは鈴本の声とは別の低い声だった
「・・・・」
【・・・カチンッ 】
成琴は無言で右手に持っているスコーピオンのハンマーを上げる
そして両手で持ち、真顔で狙いを定めた

女性には少し重い引き金を、一瞬眉間にシワを寄せ、思い切り引く

【パンッ】

それもまた、簡潔な音だった
ハンマーが雷管を叩いた、ギリギリまで爆発力を高められた液体火薬に着火し、その燃焼ガスが弾丸を押し出す。バレルを抜けた弾丸が真っ直ぐ一直線に飛んだ、吹き出すガスは衝撃波となって、成琴の腕は一瞬上に振られた。
その銃弾は、目にも止まらぬ速さだった

【グチュ 】
皮を突き抜け、骨を粉砕し、肉を破壊しながら頭の中に入っていった
鈴本の額を貫くその音は、引き金を引いた時の音とほぼ同時に聞こえた
鈴本に、そのあとの記憶はなかった
その場にうつ伏せに倒れる

背中と後頭部からの血は止まらなかった
「・・・・・」
成琴は鈴本に近付く
【ドッ】
成琴は鈴本の横に膝をつく
「・・・私・・・一緒にいてくれる仲間が1人いるだけで良かったのに・・・なんでいきなり裏切るだなんて・・・ごめんね、悪いけどこっからは私1人でやってくよ」

鈴本の体を仰向けにする
鈴本の目は開いていた、成琴を見ていた
「・・・・」
成琴はゆっくりと手をスライドさせ、目を閉じさせる

無言で鈴本のバッグをひっくり返す
そして自分のバッグの中身も全部出す
「・・・・と」
バック整理の為に武器を1つにするようだ

ーーーーー

「・・・これでよしっ」
キーチャーを駆使して1つにしたようだ
「よいしょ」
バッグを肩に掛け、立ち上がる
【パンパンッ】
手を2回叩いて歩き出す

[成琴・持ち物 コルト(武器)・銃弾30発、ガスマスク、毒ガス玉×5、ノコギリ]

○○中学校・職員室  飯田   06時59分
「・・・・」
飯田がデスクの上で肘をついて、頭を抱えている
デスクの上のパソコンには、島に侵入した6人に付いているカメラの映像が流れていた
「・・・見つかったか・・・・」
小声でささやく
飯田は体勢を直し、トランシーバーでダイヤルを北極のに合わせスイッチを入れる
『大丈夫か、北極。どうかしたか?』
『・・・・・ガガ、今・・・島のやつにみつか・・・それで・・男3に・・・バラバラにな・・・て・・・』
「やっぱりか・・・」
『今追われてんのか?』
北極は止まったようだ
『・・・はぁ・・はぁ・・・今は・・・・・・ふぅーー。今は追われてません、何発か銃を撃って逃げだせました』
『誰かケガをしたか?』
『確か・・・・撃ってきた銃弾が梶沼の肩に当たったみたいでした・・・あと、梶沼追われてるかも・・・』
『分かった・・・じゃあ北極はそのまま頑張ってくれ』
はい、というと北極はトランシーバーのスイッチをきる

梶沼のカメラを見る
「・・・・・紅い」
カメラのレンズが赤かった、何かの液体で塗られたように
飯田はトランシーバーのダイヤルを梶沼に合わせる
『・・・・・梶沼、大丈夫か・・・』
『・・・・・・』
微かな音が聞こえた、しかし何の音かは判断できなかった
その直後だった
『あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!』
「!!」
飯田はすぐにトランシーバーから耳を離す
その声、音は、人間の最高に大きな音で、最高に絞り出した音だった
まるで斷末鬼だった
梶沼のカメラが消えた、トランシーバーもガキッと音と共にノイズしか聞こえなくなった
飯田は野乃、紗山、浪原に『梶沼死亡』とメールをした
そしてもう一度、デスクに伏せた
「・・・・くそぉ・・・梶沼・・・」

残り5人

中学校・職員昇降口前  加藤・丸元・守川   09時31分
3人が職員玄関の前で立っていた
どうやら、3手に別れるようだ
「じゃあ・・・生きてるやつ集められるだけ集めて2時に本部の前な」
「あぁ」
加藤が表情1つ変えず言う
「・・・・」
守川は無言で小さくうなづいた
「・・・あ、そだ」
守川が口を開く
「宅ちゃん、ナイフ俺にくれない?」
「え・・・良いけど・・・」
「その代わりに・・・」
守川はバッグから銃を2丁出し、それぞれ2人に投げた
「っとと・・・守川はどうすんだよ」
銃を受け取り丸元が言う
「スガちゃんはナイフだけで良いの・・・?」
「あぁ、そうすればナイフは支給武器じゃない訳だし、バッグ整理で武器が落ちてるはずだからそれ拾って行くょ。だからナイフを」
「あ、うん・・・・・はい」
加藤は守川に近付いて、ナイフを手渡した
「・・・・はい」
守川は2人に銃弾も渡した
「・・・・・じゃあ、また本部の前で合おうぜ」
「おう」「あぁ」
3人は拳を合わした、そして各々が違う道へと歩み出した

[加藤・持ち物 メジャー、銃(武器)・銃弾17発]
[丸元・持ち物 警棒、銃(武器)・銃弾17発]
[守川・持ち物 ナイフ(加藤持参)]

水辺  牧屋   11時03分
「・・・・」
牧屋の目の前に成琴がいた
「・・・・成琴さん・・・」
「!!」
成琴が牧屋の方を向く
右手にはコルトが握られていた
「・・・・」
ゆっくりとバレルの先は牧屋を向いた
「!!!!」
【パンッ】

牧屋は左側に前転する
「ちょい待ち!!いきなりは止めよぉ!」
右手をパーにして成琴に向けた
「・・・・」
成琴は少し銃を下げる
「そうそう、一回はなそうよ、な?」
牧屋は自分のバッグを下に落とす
成琴は少し安心し、殺意が少し薄れた

「な、なんで・・・人殺すの?」
「・・・・邪魔するから」
「邪魔・・・?なんの?」
「生き残るために」
「・・・どゆこと?」
「生き残るには5人なんでしょ?だったらそれ以上に生き残ってるやつは私が生き残るのを邪魔してるじゃん」
「・・・・そいつらからすれば成琴さんが邪魔してんじゃない?」
「自分だけ生き残れれば良いの」
「あんた・・・そんな人間だったのか?」
「?・・・そんな酷い事してんくない?・・・そうだ!牧屋、一緒にあとのやつ殺そう!」
「・・・・・」
「・・・・?」
「・・・・あんたなぁ・・・」
「『あんた』って止めて」
「・・・成琴さん、なんでだよ・・・・なんで人殺す必要あんだよ!?協力して脱出する方法考えれば」
「そんなの・・・ズレてんじゃん」
「!?」
「正々堂々したいじゃん」
「・・・・バカか」
【パンッ】
素早く成琴の右腕が上がり、弾丸が飛び出す
弾丸が牧屋の左肩をすり抜ける
ダラダラと血が流れ出す
「・・・・口の聞き方に気をつけるぅー、分はこっちにあるんですよぉー?」
「ジ、実力行使・・・かよ・・」
右手で左肩を押さえる
成琴はコルトを下げる
「あんた・・・・」
「・・・」
「・・・・あんた親友だと思ってたやつに銃口向けられる気持ち分かんのかよ!?」
「分かんないよ」
「人間じゃねぇーのか!?気違いなのか!?なんでそんな事ほいほい言えんだーー」
「そういうの嫌い!!しかもあんたにそんな事言われる筋合いない!!何、気違いって!?頭可笑しいんじゃないの!」
「どっちがだ!!」
【パンッパンッパンッ】

右肘、右脇腹、左スネの3カ所に当たった
そしてすぐに口から血液が飛び出る
自動的に血が溢れ出る
止めどが無かった
「コフッ・・・ヒデェなぁ・・・ゴフッ・・・」
「ふざけんじゃない・・・ないよ」
「・・・・あんた親友誰よ」
「・・・・多由」
「北藤・・・・コフッ・・・どうなった?」
「知らない」
「・・・ぁ、あんた・・・北藤に銃突き付けられて撃たれたらどーよ?」
「・・・・」
「それで・・・嬉しいか?」
「そんな訳ない」
「だったら他もそれと同じだろ!?」
「・・・・!」
「俺ぁ・・・成琴さんこと適度に友達だと・・・コフッ・・・思ってたのによぉ・・・」
「・・・・まき・・・や・・」
「残念だな」
牧屋は膝をつく
「ゴフッ!!」
ビチャ、という音と共に大量の血が飛ぶ
【ーーーガシャ】
重い音と共に
成琴の手からコルトが落ちる
「ふ・・・ふざけないでょ・・・」
「・・・・」
「あぁぁ・・・あんたに言われなくたって・・・そん・・・そんなこと分かってる・・・!」
「・・・なら良か・・・・ったょ・・・成琴・・・さんは普通の人間・・・じゃんんん・・・」
「・・・・バカ・・・・」
「もう・・・形振り構わず・・・人殺しちゃダメだょ・・・そんで生きて・・・人の心の痛みの分かる人間に・・・なるんだよ・・・・」
そういうとうつ伏せに倒れた
牧屋の身体の下からは血が滲み出ていた
「・・・・ねぇ」
成琴は倒れた牧屋に言う
そしてゆっくりと近付く
牧屋の目の前まで来てしゃがむ
「・・・・ねぇ、喋ってょ・・・私、この後どうすれば・・・いいの?」
「・・・・・・生きろ」
うつ伏せになり、虫の息の牧屋が最期の一言を、最後の力を振り絞って言った
・・・・その後。牧屋の口は開かなかった
「・・・・・バ・・・・バカ・・・・」
右手を牧屋の背中に置いてみせた
「・・・・ゴメンなさぃ・・・・ごめん・・・なさぃ・・・」
その場で泣き崩れた


ーーーーーーーー生きろ





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